非・溺愛宣言~なのに今夜も腕の中~
 湊斗は何も言わず、じっと一毬を見下ろしていたが、しばらくして、しかめた顔を幾分か緩ませると、急に長い腕で一毬を抱きしめた。

 起きている時に、湊斗に抱きすくめられるなんて初めてだ。

「み、湊斗さん?!」

 一毬はぎょっとして、思わず棒立ちになってしまう。


 湊斗は「はぁ……」と大きなため息をつくと、一毬の頭をぽんぽんと優しく撫でながら、顎を一毬の後頭部に乗せた。

 湊斗の胸元が少し開いたシャツに顔をうずめる態勢に、一毬の心臓はオーバーヒートしそうだ。

 ドキドキと早くなる自分の心臓と、湊斗の鼓動のスピードが重なる。


「……出て行ったのかと思った」

 すると一毬の耳に、湊斗の驚くほど弱々しい声が聞こえた。

「え?」

 一毬が驚いて顔を上げると、湊斗は少し照れるように顔を横に背けた。


「この前、いろいろあったから。もう帰ってこないのかと思った」

 この前とは、湊斗が花束を抱えていた日のことだろうか。
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