非・溺愛宣言~なのに今夜も腕の中~
「一毬……?」

 湊斗の声からは、明らかに戸惑っている様子が伝わってくる。


 ――こんなの、困らせるだけだってわかってる。


 これ以上を求めれば、湊斗に面倒くさい女だと思われるかも知れない。

 何が真実なのかもわからないまま、ただの優しさを勘違いした、馬鹿な女だと呆れられるかも知れない。


 ――それでもやっぱり、私はあなたの愛が欲しい……。


 自分がこんなにも欲深いとは思ってもみなかった。

 “愛される余地はない”と言われていたのに……。


 一毬は握りしめた両手を、かすかに震わせながら息を吸った。

「キスして……欲しいです」

 湊斗の瞳が大きく揺れる。


 どれくらい時間が経ったのだろう。

 わずかなためらいの後、湊斗は吐息を一毬の唇ではなく耳元に注いだ。


「一毬……お前は隣で寝てるのがいい」

 静かな声でそう言うと、湊斗は一毬の身体をそのままぎゅっと優しく抱きしめる。

 その瞬間、一毬の身体中を、強い風が一気に吹き抜けた。
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