非・溺愛宣言~なのに今夜も腕の中~
 ――いくら抱きしめられても、それでも、私は愛されない……。


 一毬の首元に顔をうずめる湊斗の身体は、まだこんなにも熱を帯びているというのに。

 一毬は次第に潤んでぼやける瞳をぎゅっと閉じると、抵抗するように湊斗の背中に手を回した。

 湊斗は静かに顔を上げると、一毬をなだめるようにゆっくりと身体を支える。


 ――お願い……離さないで……。


 心の中で叫ぶ一毬の願いもむなしく、湊斗は一毬を抱き起こすとソファへと座らせた。


 湊斗は一毬の前に片膝をついてしゃがみ込むと、大きな手を一毬の頭に乗せる。

「俺はもう少し仕事が残ってるから。一毬は先に寝てていいぞ」

 悲しみを押し込めたような顔で、湊斗がささやく。

 一毬の瞳に涙が溢れていることに、気がついているのかいないのか。

 湊斗は頭に乗せた手を、大袈裟にくしゃくしゃと動かした。


 一毬はうつむいたまま「はい」と、わざとはっきりとした声を出す。

 涙で震える声を、湊斗に悟られないようにと願いながら。
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