非・溺愛宣言~なのに今夜も腕の中~
 ――大変な仕事の前に、私が心を乱すようなことをしてしまった……。


 一毬はつくづく自分の愚かさを呪った。


 あの夜、いくら待っても湊斗がベッドに来ることはなかった。

 朝になり、いつの間にか眠ってしまった一毬が目を覚ますと、部屋にはすでに湊斗の姿はなく、ソファで仮眠をとったのであろう形跡だけが残されていた。

 一毬はソファに置きざりにされたブランケットを取り上げると、握りしめながら声を上げて泣いた。


 その日以降、湊斗はプレス発表会の準備があるからと、部屋に帰らなくなった。

 会社でも会うことはなく、湊斗の顔を見なくなって数日が過ぎている。


 ――もう嫌われたって、仕方がないよね。


 一毬は自嘲するように息を吐く。


 すると突然、フロアの奥の席から、悲鳴ともとれる叫び声が聞こえた。

 一毬は何事かと、腰を浮かせながら奥のデスクの様子を伺う。

「な、なんだこれ……。どうなってるんだ……」

 声を上げたのは、課長補佐の男性社員の矢島だ。
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