非・溺愛宣言~なのに今夜も腕の中~
 目に映る湊斗の苦痛な表情に、耐え切れないほどの痛みを感じる。

 当然だ。湊斗があれ程の想いを込めて仕事に向き合っているのに、社内に裏切り行為をした人がいるかも知れないのだ。


 その時、電話を終えた牧が湊斗のそばに寄った。

「今、システム部に復旧状況を確認しましたが、すでに削除されたデータの復活は絶望的だと……」

「どのファイルが消されたんだ!」

 牧の報告が終わらない内に、倉田が横から声を出す。


「申し上げにくいんですが、研究室のファイルはあらかた消えています。その他にも被害の出ている部署はありますが、楠木さんの機転で電源を落としたことによって、電源が切れて以降のファイルは無事だと思われるとのことでした」

 牧の淡々とした声が静かなフロアに響いた。

「まじかよ……」

 倉田がふらふらとのけぞり、空いている椅子に倒れ込むように座る。


「つまり、発表会で使おうと思ってたものも、ゼロになったってことか……」

 湊斗の唸るような声に、誰もが言葉を失い、重苦しい空気が事の深刻さを物語っていた。
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