非・溺愛宣言~なのに今夜も腕の中~
「君も、準備に取り掛かってくれ」

 そしてポンポンと優しく肩を叩いた後、そのまま入口へと足を向ける。

「社長……」

 矢島は顔を上げると、再び悔しそうにこぶしを握り締めながら嗚咽をもらした。


「さぁ、各々持ち場に戻れ」

 総務課長の声が響き、わらわらとみんなが自席に戻りだす。

 もう誰も取り乱したり不安な表情はしておらず、それぞれが湊斗を信じて前を向いていた。

 一毬は涙を必死にこらえながら、ぎゅっと両手を握る。


 ――たとえ、愛されなくてもいい……。私も湊斗さんを支える一人になりたい。


 一毬は顔を上げると、勢いよく駆けだした。


 人々の間をぬって、すでに扉の向こうへと見えなくなった湊斗の後を追う。

 湊斗は牧とともに、エレベーターホールへと向かう角を曲がった所だった。


「み、湊斗さん……社長!」

 エレベーターの前で追いついた一毬は、息を切らしながら口を開く。

「一毬?」

 突然聞こえた声に、湊斗が驚いた様子で振り返った。
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