非・溺愛宣言~なのに今夜も腕の中~
 一毬は下を向くと、自分の手をぎゅっと握りしめた。

「私がいるからですよね。湊斗さんが、部屋に帰らないのは……」

「お前何を……」

「これ以上、忙しい湊斗さんに負担はかけられません。私は部屋を出ますから……」

 そう言いながら顔を上げた一毬の両肩に、湊斗が大きな手で優しく包むように触れる。


「いや、違うんだ。一毬」

「……違う?」

「俺の方こそ、この前は突然あんなことして、悪かったと思ってる。年甲斐もなく嫉妬したんだ。正直、気持ちが抑えられなかった……。だから、少し考えたくて帰らなかった」

 湊斗は少し困ったような顔をしている。

 こんな湊斗の顔は今まで見たことがない。

 一毬は湊斗の言葉の意味を、推し量るようにじっと顔を見上げた。


 あの日、一毬は真実を知りたいという自分の気持ちと、一ミリでもいいから愛されたいと願った想いを、湊斗に拒否されたと思っていた。

 結局自分は、愛されない存在なのだと。


 ――でも……違うの……?
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