非・溺愛宣言~なのに今夜も腕の中~
 その時、ポンと音が鳴り、エレベーターの扉が途中の階で開く。

 別の部署の社員が数名、中へと乗り込んできた。

 社員たちは湊斗の顔を見ると、慌てた様子で会釈をし、正面を向いて静かに立っている。

 どうも他部署には、ウイルスの情報はまだ入っていないようだ。


 湊斗は社員たちに応えるように目線を動かすと、一毬をそっとエレベーターの奥へと追いやった。

 すると壁際にちょこんと立った一毬の手に、湊斗の長い指先が触れる。

 一毬はドキッと心臓が跳ねて、その指先を見つめた。


 ――この指先を、私はつかんでもいいの……?


 湊斗の言葉と、その手の意味を考えるうちに、あっという間にエレベーターは一階に到着した。

 到着の音とともに湊斗の手は離され、一毬はうつむいたまま後ろをついてエントランスをぬける。


 正面玄関の前にタクシーが見えた所で、湊斗がぴたりと足を止めた。

 一毬は一瞬、湊斗の背中にぶつかりそうになりながら、慌てて顔を上げる。
< 126 / 268 >

この作品をシェア

pagetop