非・溺愛宣言~なのに今夜も腕の中~

夏の嵐

 車のサイドミラーに映った一毬の姿が、だんだんと小さくなっていく。

 湊斗は窓ガラスに当てた手の平を見つめると、くくっと肩を震わせた。


 ――まるで昔の恋愛映画みたいだな。ガラス越しにキスでもしそうな勢いだ。


 以前どこかで見た映像が頭に浮かび、急に恥ずかしさがこみ上げた湊斗は、照れ隠しをするようにその手を額に当てた。


 まだ指先には、一毬に触れた感触が残っている。

 湊斗は気持ちを切りかえるように「ふう」と一旦息を吐いた。

 一度スマートフォンを確認するが、牧からの連絡は入っていない。


 ――何にせよ、まずはプレス発表会を乗り切るのが先だな。


 湊斗は窓の外に目をやった。

 車はスピードを上げて軽快に大通りを進み、やがて大きな建物が見えてくる。

 湊斗は指をさすと、マンションの正面玄関前にある駐車スペースへ入るよう、運転手に声をかけた。

 そこは一時的に迎えの車を待たせておくスペースで、今も数台の車が止まっている。


「しばらく、ここで待っていてください」

 湊斗は運転手に声をかけると、急いで車を降りた。
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