非・溺愛宣言~なのに今夜も腕の中~
「はい、はーい」

 扉を閉じる直前、運転手の間の伸びた声が背後から聞こえる。

 湊斗は駆け足でエントランスをぬけると、挨拶するコンシェルジュに軽く手を上げてエレベーターへと飛び乗った。


 部屋の前にたどり着き、玄関の扉を開けた瞬間、どことなく一毬のものと思われる甘い香りが鼻先をかすめる。

 湊斗はその香りを心地よく感じながらソファに腰を下ろすと、初めてほっと息をついた。


「一毬の存在を感じるだけで、こんなにも心が安らぐものなんだな……」

 一毬と暮らすようになってから、この部屋には明るい色がついようだ。

 湊斗は数日ぶりに帰ったリビングを、ぐるりと見回した。

 リビングはきちんと整理され、新聞や郵便物は目に付くようにテーブルに置かれている。

 いつ湊斗が戻ってもいいようにと、一毬が置いたのだろう。


 湊斗は顔をほころばせると、ノートパソコンに手を伸ばす。

 フォルダを順にクリックしていくと、プレス発表会の元原稿は無事だった。

 湊斗は内容を細かくチェックした後、原稿の一部を削除すると、キーボードに手を置いた。
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