非・溺愛宣言~なのに今夜も腕の中~
「前に進むために」

 あの日、湊斗は一毬に対する想いが、自分でも思っていた以上に膨れ上がっていることを自覚した。

 そのことに戸惑い、一旦は一毬の前から逃げ出したのだ。


「でももう、それも終わりにしたい」

 一毬に真実を告げよう。

 その後でどうするか決めるのは、一毬自身だろう。

 湊斗は自分自身にうなずくと、手早くキーボードを叩き新たに文章を書き加える。


 しばらくして入力を終えた湊斗は、パソコンを手に部屋を後にした。

「藤堂様。いってらっしゃいませ」

 エントランスを通り、入り口の扉をぬける際に、見知ったコンシェルジュが声をかける。

 湊斗は軽く口元を引き上げると、そのまま外へと足を踏み出した。


 急激に発達した灰色の厚い雲が空を覆いだしたからか、辺りは昼前だというのに薄暗く感じる。

 目の前の駐車スペースでは、タクシーの運転手が湊斗の姿を見つけて、慌てて外へ出る姿が見えた。


 湊斗が運転手に向かって軽く手を上げた、その瞬間――。

 湊斗は背後に人影を感じて振り返った。
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