非・溺愛宣言~なのに今夜も腕の中~

突然の呼び出し

「やっぱり湊斗社長ってすごいのよ! 佐倉さんも見たでしょう?」

 総務部のフロアに戻り、発表会の作業を進めていた一毬の隣で、吉田のよく通る声が聞こえた。

 一毬が顔を向けると、吉田は大袈裟に腕を組みながら、一人納得したようにうなずいている。


「これだけの大事件が起こったってのに、あの落ち着きっぷり。それに輪をかけて発揮されるリーダーシップ。そしてミスした社員へのフォローも忘れない」

 吉田は惚れ惚れとした顔つきで、宙を見つめた。

「はぁ……本当に男前だわ」

 先ほどの一件で、吉田の湊斗推しはさらに強くなったようだ。


 一毬はくすりと笑うと、そっと口元に手をそえる。

「吉田さん。手が止まってます」

 吉田は慌てて「ごめんごめん」と舌を出すと、また手を動かしだした。


 一毬は袋詰めされた会社のパンフレットに写った湊斗の写真を見ながら、ついさっき見送ったはにかんだ顔を思い出す。


 ――湊斗さん、発表会が終わったら、話してくれるって言ってた。


 今はどれだけ不安になってもしょうがない。

 湊斗を信じて、自分はできることをするしかないのだ。
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