非・溺愛宣言~なのに今夜も腕の中~
 その目線の先では、楠木が真剣な表情でパソコンに向かっていた。

 今、楠木はプレスリリースの資料を元に、発表会の配布資料を作成している。

 資料の原本は当然ウイルス騒動で削除されていたが、WEB上に掲載された内容は無事だったのだ。


「やっぱり楠木くんも相当デキる人だよねぇ。ウイルス被害が最小限にとどめられたのは彼のおかげだし」

 吉田の声を聞きながら、一毬は再び楠木の横顔をチラッと伺った。

 確かに、ウイルス騒動が起きてからの楠木の行動は的確だった。

 そのおかげで湊斗も間を置かずに、マンションまでパソコンを取りに帰れたのだ。


 ――そろそろ湊斗さん、戻って来てる頃かな。


 一毬がふと壁際の時計に目をやった時、目の前で電話を受けていた女性社員が軽く手を上げた。


「佐倉さん。内線があって、受付に来てほしいって」

「受付……ですか?」

 一毬は首を傾げながら立ち上がる。

 働き始めて日の浅い一毬に、社外の人からの面会などあるはずはない。

 なぜ自分が受付に呼ばれるのか、訳が分からなかった。
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