非・溺愛宣言~なのに今夜も腕の中~
「“ひまりさん”って、佐倉さんのことだよね? って何回も確認されたんだよね。とりあえず1階の総合受付に行ってもらえる?」

 女性も困ったような顔で首を傾げている。

「わかりました」

 一毬はとりあえず女性に短く答えると、入り口の扉へと向かった。


 扉を閉じる前に、もう一度楠木の様子をそっと振り返る。

 やはり楠木は真剣な表情で、脇目も振らずにパソコンに向かっていた。

 一毬は今日、一度も楠木と目が合っていない。

 たとえ告白めいた事を言われたとはいえ、ただの同僚なのだから、そんな日もあるかも知れない。

 でも……。


 ――思い過ごしかな……。


 一毬はそう自分に言い聞かせると、静かに扉を閉じた。


「一毬ちゃん」

 一毬がエレベーターホールに立っていると、急に後ろから呼び止められる。

 振り返ると、倉田が「ちょうど良かった」と言いながらこちらへやってきた所だった。

「湊斗から連絡って入ってないよね?」

「え?」

 一毬はすぐに自分のスマートフォンを確認する。

 特に何も着信やメールは届いていなかった。
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