非・溺愛宣言~なのに今夜も腕の中~
 “david(ダビデ)”

 エンターキーを押した途端、拍子抜けするほどすんなりとパソコンのトップ画面が開いた。


「く、倉田さん! 開きました!」

 一毬は、隣でぶつぶつと発表の練習をしている倉田の腕をつかむ。

「うへ?! え……本当?!」

 倉田は信じられない様子で、開いたパソコンの画面を、食い入るように見つめた。

 フォルダを順にクリックしていくと、そこには数時間前に最終更新された発表会の原稿が入っていた。


「ねぇ……」

 時間をかけて内容を確認した倉田から、困惑したような声が聞こえた。

 倉田は画面に目を落としたまま、固まったように動かない。


「湊斗が出ていく前にさ、一毬ちゃんに何か言ってた?」

「え……? 何かって……」

 湊斗が言っていたのは、発表会が終わったら“話したいことがある”ということ。


 ――それと……。


 一毬は、湊斗のはにかみながらも、真っすぐに前を見つめる澄んだ瞳を思い出す。


「もう逃げたくないって、前に進みたいって、言ってました……」

 一毬の答えを聞いた途端、倉田は驚いたように目を丸くしていたが、やがて肩を小さく震わせ出す。
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