非・溺愛宣言~なのに今夜も腕の中~

オフィスデビュー

「で……? しばらく彼女を、部屋におくことにしたと?」

 運転席から大きなため息とともに、明らかに不機嫌な声が聞こえてくる。

 バックミラー越しに見える牧の鋭いまなざしに、一毬は耐えきれず思わず目を逸らす。


 あれから程なくして、湊斗のマンションに牧が現れた。

「社長に言われた通り、適当に見繕ってきましたけど……」

 チラッと横目で一毬を一瞥して、牧が差し出した紙袋には、女性ものの服や小物が数点入っていた。


「お前、ドーナツ屋の服で一生過ごすつもりか?」

 湊斗に鼻で笑うように言われ、一毬はしぶしぶその紙袋を受け取った。

 今はその中にあったストライプのブラウス、薄手のグレーのカーディガンと黒のタイトスカートに身を包み、牧が運転する車の後部座席に座っている。


 一毬は学校を出てからずっと、あの店でドーナツを作ってきた。

 当然、オフィスで働いた経験などない。
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