非・溺愛宣言~なのに今夜も腕の中~
 倉田はそこまで言うと、静かに湊斗の作成した原稿に目を落とす。


 ――湊斗の決意は、俺が受け取ったよ。


 倉田が“溺愛宣言”と呼んだそれは、湊斗の大きな反乱だった。

 菱山や会長に押さえつけられ、“眠りの呪い”に囚われていた湊斗が、すべてを捨てて自分の想いを貫く決断をしたのだ。


 ――これが溺愛でなくて、何だっていうの? 全く羨ましいよね。


 会場内はざわざわと騒めきだしている。

 発表会の場での方針転換など、普通はあり得ない話だ。

 後方の席に座る菱山の社員が、腰を浮かせながら驚いた顔で倉田の次の発言を待っている。

 倉田はくすっと肩をすくめると、まっすぐ正面を見つめた。


「今後弊社では、開発を一からやりなおし、小さな診療所やクリニックにも設置できる、小型でコストを抑えた機器の開発を進めます。より身近な、今まさに困っている人たちのためになる医療機器の開発。それが藤堂湊斗の目指す未来の会社像です」

 会場内にガタっと椅子を倒す大きな音が響いた。

 誰もが振り返る中、倉田は静かに前だけを見続けていた。
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