非・溺愛宣言~なのに今夜も腕の中~
 プレス発表会のライブ配信が終了し、ディスプレイの画面は最初のタイトル表示に戻った。

 社内は一瞬シーンという静けさに包まれる。


「つまり……どういうこと?」

 吉田が眉間に皺を寄せながら、楠木を振り返った。

 楠木は目を見開いたまま動かない。

 その顔色はどんどん青ざめていくように見える。


「なんだよ、今の……」

 フロアの奥の方から、誰かがつぶやく声が漏れ聞こえた。

 社員それぞれが倉田の言葉に戸惑っている様子だ。


「ねえ、楠木くん。これって、菱山とは縁を切るってこと?」

 吉田がもう一度問いかけるが、楠木はやはり黙ったまま何も答えない。

「資金がなければ、当然開発も進まないよね。まさか、倉田さんの暴走……?! 湊斗社長が出なかったのって、そういうことじゃない?!」

 吉田の強引な推理に、楠木は突然「ははっ」と肩を揺らして笑うと、背もたれに寄り掛かりながら顔を天井に向けている。


「これは倉田さんの言葉ではなく、社長の言葉でしょうね」

「そうなの?! じゃあ、ますます大事(おおごと)じゃない」

大事(おおごと)ですよ、本当に……全く、人の気も知らないで、勝手なことしてくれますよね」

 楠木は最後の言葉をのみこむようにつぶやくと、そのあとは硬く口を閉ざした。
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