非・溺愛宣言~なのに今夜も腕の中~
 大きくて骨ばっているけど、すらっと伸びる長い指。

 そんな指に湊斗の繊細さを感じながら、一毬は顔を上げると、改めて湊斗の姿に目をやった。


 湊斗は検査着のようなガウン姿で、腕には包帯を巻き、頬にもガーゼが当てられている。

 やはり襲われて、怪我をしたのだ。

 痛々しい湊斗の姿に、事件の様子が浮かんできて、また一毬の瞳に涙が溢れてくる。


「怪我は大したことないんだ。後ろから襲われて、咄嗟に身をひるがえした時にぶつけたくらいだ。騒ぎになる前に、パソコンだけ届けた方がいいと思ったんだが、色々と行き違いがあったみたいで、心配させて悪かったな」

 湊斗はそう言うと、一毬の頬の涙を指で拭った。


 行き違いとは、運転手が詳しい説明をせずに立ち去ったことだろうか。

 確かにそのせいで状況が何もわからず、みんなが不安になったのは事実だ。

 でも事件を目撃した運転手も、きっと気が動転していたに違いない。

 そんなことを思いながら、ようやく一毬が息をつくと、牧のスマートフォンが勢いよく鳴った。
< 160 / 268 >

この作品をシェア

pagetop