非・溺愛宣言~なのに今夜も腕の中~
 コンコンと、再び扉をノックする音が響き、湊斗は小さく返事をする。

 入ってきた母の顔を見た途端、湊斗は心配をかけたことへの申し訳なさがこみ上げ、小さく息を吐いた。


「湊斗、起きていて大丈夫なの?!」

 母は眉を下げると、今にも泣きだしそうな顔つきで駆け寄ってくる。

「母さん、怪我は大したことない。安心して」

 母はしばらくベッドの脇で、湊斗を覗き込んでいたが、湊斗の落ち着いた声に、ようやくほっとしたのか、隣の椅子に腰を掛けた。


 久々に見る母の姿は、以前よりも痩せて小さくなったように感じる。

 度々意見を対立させる湊斗と父の間で、母にはいつも苦労をかけてきた。


 ――事件のことで、余計な心配をかけた上、また気をつかわせることになるが……。


 そんな湊斗の様子に気がついたのか、母が厳しい声を出す。


「お父さんには、牧さんから連絡が入っているわ。仕事の合間を縫って、顔を出すとは言ってたけど……ひどくお怒りのようよ」

 もうすでに父の耳にも、プレス発表会で倉田が話した内容が入っているのだろう。

 父が激怒することは目に見えていた。

 でも湊斗はこの決断を撤回する気はない。
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