非・溺愛宣言~なのに今夜も腕の中~
 そんな湊斗の顔を見て、母は小さくため息をついた。

「本当に頑固なんだから……。お父さんにそっくりね」

 そう言いつつも、母の顔は少しほころんでいる。

 湊斗は何も答えずに、ただ母の顔を見つめていた。


 子供の頃から時折思っていたことがある。

 母は幸せなのだろうか? と。

 TODO(トウドウ)という大企業の二代目に嫁ぎ、ワンマンな父に振り回されながらも文句も言わず、いつも横に控えていた。


 ――一毬には、今のまま、あの素直な笑顔を絶やさずに、そばにいて欲しい……。


 笑顔で病室を出て行った一毬の顔を思い浮かべながら、湊斗ははっと我に返る。

 自然とそんなことを考えてしまうほど、湊斗の中で一毬の存在が大きくなっていることに気づかされる。


「そういえば。さっきここを出ていく、可愛らしいお嬢さんを見かけたけど……」

 母が小さく口を開き、湊斗は「え?」と声を出した。

 一毬の姿を母に見られていたようだ。


「今、彼女と一緒に暮らしてる」

 淡々と告げる湊斗の言葉に、母は目を大きく見開くとしばらく声を詰まらせた。

「お父さんは、知ってるの……? (ゆかり)さんのことは、どうするのよ?!」

 母はひどく動揺した様子だ。
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