非・溺愛宣言~なのに今夜も腕の中~
 湊斗はできるだけ母を落ち着かせるように、静かに声を出す。

「紫さんのことが解決しない限り、彼女……一毬とは先に進めないことはわかってる」

「でも、一緒に暮らしてるって……」

「一緒に暮らしてはいるけど、今はただそれだけだ。何もやましいことはない」

「そんなこと信じられる?! それに、あのお嬢さんは、それを納得してるっていうの?!」

 母は椅子から腰を浮かすと、興奮気味に声を出す。

 脇に控えていた男性が、小さく「奥さま」と声をかけた。


「一毬はまだ何も知らない……」

「え……?!」

 母は、開いた目をさらに丸くする。

「でも、すべてを打ち明けるつもりだ。その上で、彼女が去るのなら、俺はそれで仕方がないと思ってる」

 真っすぐとした揺るぎのない湊斗の瞳に、母はしばらく呆然としていたが、小さくため息をつくと静かに立ちあがった。

 もうさっきまでの動揺した母の顔つきではない。


「あなたの気持ちはわかったわ」

「母さん?」

 母はそのまま何も言わずに、湊斗に背を向け扉に向かうと、しばらくしてぴたりと足を止めた。

「でも、安心した……。あなたでも、そんな顔するのね」

 母はそれだけ言い残すと、静かに病室を出て行った。
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