非・溺愛宣言~なのに今夜も腕の中~
「目的? それは、御社の医療機器メーカーとしての、研究と製品化の実力に感銘をうけ……って、こういう答えは求めてませんよね?」

 楠木は、わざとおどけたように答えると、くすくすと肩を揺らした。

「お前、馬鹿にしてんのか?!」

 倉田が楠木に食ってかかる。


「おやおや、これは今話題の倉田室長じゃないですか。発表会で勝手な発言をしたって、もっぱらの噂ですよ」

「なんだと!」

 楠木の胸ぐらを掴みにかかる倉田を、牧が慌てて止めに入った。

 倉田はそれでも楠木に食ってかかろうとしたが、湊斗に制止される。

 楠木はスーツの裾を引き、崩れを直すと涼しい顔を向けた。


「でも今回の発表をしたのが、倉田さんでよかったですよ」

「どういう意味だよ?」

「その方が、社員が勝手に発言したことですって、撤回できるでしょう?」

 楠木の発言に、湊斗は静かに立ちあがる。


「俺は発表内容を撤回する気はない。あれは倉田の言葉ではなく、俺の言葉だ」

 楠木は「くっ」と顔をゆがめると、湊斗を睨みつける。

「そういうところですよ!」

 急に声を荒げる楠木に、一毬は驚いて顔を上げる。
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