非・溺愛宣言~なのに今夜も腕の中~
 一毬は初めて聞く“(ゆかり)”という名前と“結婚相手”という言葉に、ジクジクと心が痛みを感じ出す。

 どれだけ湊斗が前に進みたいと思っても、こうやって周りは許さないのだ。


 すると楠木が湊斗の前に立ちはだかり、人差し指を湊斗の鼻先へと突き立てた。


「僕の妹は、あなたのせいで事故にあったんだ!」


 静まり返った部屋に、楠木の声がこだまするように響き渡る。

 耳元で殴られたように聞こえた言葉に、一毬は目を見開いたまま息を止めた。


 ――事……故……?


 菱山の娘、紫が湊斗のせいで事故にあったとは、一体どういうことか?

 訳が分からず動揺する一毬の目の前で、湊斗がぐっと拳を握り締めた。


「勝手なこと言いやがって!」

 すると突然、倉田が叫び、牧の腕を振りほどくと楠木に詰め寄る。

 そして両手で胸ぐらを掴むと、何度も何度もゆすった。

「お前らのせいだろう? お前らが自分たちの利益しか考えないやり方をするから、周りが傷つくんだ! 湊斗がどれだけ苦しんでるのか……お前は、わかって言ってるのか……?」

 倉田の声は震えている。
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