非・溺愛宣言~なのに今夜も腕の中~
 楠木は「ふん」と息を吐くと、倉田に軽蔑するような視線を向けた。

 牧が慌てて間に入り、無理やり引き離すと、うなだれる倉田をソファへと連れて行く。


「事故……って?」

 しばらくしてようやく出した一毬のかすれた声に、湊斗が苦しそうな顔を上げる。

 その顔を見て一毬は確信した。

 湊斗にかかった“眠りの呪い”は、紫の事故が関係している。


「あれ? まさか、佐倉さんに話してないんですか? 一緒に暮らしておきながら、随分と残酷なことをされるんですね」

 楠木の声に、湊斗は静かに目を閉じる。

「佐倉さんも可哀そうに。大人しく社長から、離れればよかったものを……」

 その言葉を聞いて、毬ははっと顔を上げた。

 つまり楠木が一毬に興味を持ったのは、湊斗と一緒に暮らしているからだ。


 ――私のことも、利用しようとしたんだ……。


 一毬がキッと睨みつけると、楠木は薄く笑いながら、再び湊斗に向きなおる。


「社長、これだけは忠告しておきます。父の怒りを買う前に、プレス発表会の内容は、撤回した方が身のためですよ」

 楠木はそう言い残すと、何事もなかったかのように社長室を後にした。
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