非・溺愛宣言~なのに今夜も腕の中~
 湊斗は“発表会が終わったら、話したいことがある”と言っていた。


 ――このことだったんだ……。


 一毬は今目の前で、自分を責めるように話した湊斗を見つめた。

 きっと湊斗は、事故の日以来、こうやって自分を責め続けている。


「あの日、なぜ紫さんを一人で、飛び出させてしまったのか。なぜ先に紫さんに伝えたのか。悔やんでも悔やみきれない。だから、その時決めたんだ」

「……何を?」

 湊斗は一瞬ためらったのち、静かに顔を上げた。


「紫さんの記憶が戻るまでは……誰も、愛さないと」


 一毬は、はっと息を止めると、涙がいっぱいに溜まった瞼を静かに閉じる。

 ポロポロと溢れた雫が、膝に落ちてはじわりとシミをつくった。


「これが、俺の真実だ……」


 あぁ、ようやくわかった。

 『お前を愛する余地は一ミリもない』と言った、湊斗の言葉の意味が。

 そしてそれは、あまりにも、一毬には悲しすぎた。


 湊斗はしばらく、両手の長い指を膝の前で組んだまま下を向いていたが、指をほどくと静かに立ち上がる。
< 185 / 268 >

この作品をシェア

pagetop