非・溺愛宣言~なのに今夜も腕の中~
「それが、無かったことにするのと同じだと言ってるんだ!」

 父とはこれ以上、何を話しても堂々巡りになるだけだろう。

 湊斗は静かに頭を下げると、その場を立ち去ろうとした。


 会長室の扉の取手に手をかけた時、父がおもむろに口を開く。

「湊斗。お前最近、部屋に女を入れてるらしいな」

 湊斗ははっとして振り返る。

 母が一毬のことを伝えたのだろうか。


「まぁ、部屋に入れる事をとやかく言うつもりはない。ただ、女とは適当な時に、あと腐れなく縁を切れ。金は好きなだけくれてやればいい」

 湊斗は一瞬、頭の中が真っ白になる。

 あまりの怒りに眩暈さえ感じる。

 湊斗は震える拳を握り締めながら、自分の感情を抑え込むように口を開いた。


「彼女とは、縁を切るつもりはありません……」

 湊斗の言葉に、父の顔色が変わる。

「何ふざけたことを言っている?! 第一、紫さんのことはどうする。お前のせいで記憶を失った紫さんをおいて、他の女と一緒になるなど、あの菱山社長が許すわけがなかろう」
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