非・溺愛宣言~なのに今夜も腕の中~
重なる心
「一毬ちゃん。ちょっといい?」
定時が回った頃、倉田が総務部にやって来た。
倉田は一毬の隣の席に目をやると、小さく眉を上げる。
「……楠木は?」
一毬は小さく首を振った。
「私が戻って来た時には、いませんでした。吉田さんには体調不良で早退するって、言ってたみたいです」
「へえ。正体がバレて、逃げたのかもね」
倉田は小声でそう言うと、指先で扉を指し、一毬を外へと誘いだす。
会社のビルの外には、緑が植えられたちょっとした休憩スペースがあり、石造りのベンチが備え付けてあった。
倉田はベンチに腰かけると、手に持っていたペットボトルのお茶を、一気にゴクゴクと飲み干した。
「湊斗から、紫さんの事故のこと聞いた……?」
倉田が遠慮がちに声を出し、一毬は小さくうなずいた。
「前にさ、湊斗には“眠りの呪い”がかかってるって言ったでしょ?」
「……はい」
「紫さんがここに通ってる頃、言ってたんだって。『私の事で頭をいっぱいにして、夜も眠れない程にしてみせます』って。皮肉だよね。紫さんはそんな事を言った記憶を無くし、湊斗はその言葉に囚われるように眠れなくなった……」
定時が回った頃、倉田が総務部にやって来た。
倉田は一毬の隣の席に目をやると、小さく眉を上げる。
「……楠木は?」
一毬は小さく首を振った。
「私が戻って来た時には、いませんでした。吉田さんには体調不良で早退するって、言ってたみたいです」
「へえ。正体がバレて、逃げたのかもね」
倉田は小声でそう言うと、指先で扉を指し、一毬を外へと誘いだす。
会社のビルの外には、緑が植えられたちょっとした休憩スペースがあり、石造りのベンチが備え付けてあった。
倉田はベンチに腰かけると、手に持っていたペットボトルのお茶を、一気にゴクゴクと飲み干した。
「湊斗から、紫さんの事故のこと聞いた……?」
倉田が遠慮がちに声を出し、一毬は小さくうなずいた。
「前にさ、湊斗には“眠りの呪い”がかかってるって言ったでしょ?」
「……はい」
「紫さんがここに通ってる頃、言ってたんだって。『私の事で頭をいっぱいにして、夜も眠れない程にしてみせます』って。皮肉だよね。紫さんはそんな事を言った記憶を無くし、湊斗はその言葉に囚われるように眠れなくなった……」