非・溺愛宣言~なのに今夜も腕の中~
 一毬は両手で顔を覆う。


 ――もう、どうしようもないじゃない……。


 たとえ前に進むと決めたとしても、やはり湊斗ほど責任感の強い人が、自分のせいで記憶を失った紫を放っておける訳がない。

 それに紫の話には新製品の開発と、そこに関わる莫大な資金も絡んでいる。

 “紫の記憶”という弱みを握られた湊斗は、身動きが取れないまさに呪われた状態だった。


 倉田は「あのさ」と言うと、一毬の顔を下から覗き込む。

「なんで俺がプレス発表会の原稿を、“溺愛宣言”って言ったかわかる?」

 一毬は両手で顔を覆ったまま、首を横に振った。

「紫さんの事故以降、湊斗は自分の気持ちを一切言わなくなった。まるで言葉にすることを、恐れるかのようにね。だから開発だって、菱山の良いように進んでた。その湊斗がさ、自分の想いだけを貫くって宣言したの。湊斗を押さえつけている何よりも、一毬ちゃんを選んだんだよ」

 一毬は「え……」と顔を上げる。
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