非・溺愛宣言~なのに今夜も腕の中~
 湊斗はキーボードから手を離すと、右手で目頭を軽く押さえる。

 もうとっくに定時は過ぎた時間だが、窓からのぞく空は明るさを残していた。

 ウイルス騒動以降、気が休まる間もなく目まぐるしく状況は変わっている。

 開発についても方向性を変えると決めたものの、問題は山積みだ。

 菱山への対応も考えなければならない。


 ――まさか楠木が、菱山の息子だったとはな……。


 湊斗は思わず深くため息をつく。


「社長、少し休憩を取られた方が……」

 牧が心配そうな顔を覗かせながら、デスクにコーヒーを置いた。

 鼻先をかすめる深い香りにほっとする。

「ウイルスの件は、何か進展はあったか?」

 湊斗がカップを口元に運びながら見上げると、牧は困ったように首を横に振った。

「今のところは何も。少しでも何か、手がかりがあればいいのですが、今は一つずつしらみつぶしに調べている状況で……」

 そう言いながら、湊斗のデスクの書類を片付けている牧の顔も、少し疲れが見えている。
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