非・溺愛宣言~なのに今夜も腕の中~
 扉をノックする音が響くのと同時に、牧は「お先に失礼します」とにこやかに告げた。

 牧と入れ替わるように入って来た姿を見て、湊斗は思わず立ち上がる。

 目の前に立っていたのは一毬だった。

 一毬は走って来たのか、頬は上気してほんのりピンク色だ。


「湊斗さん」

 一毬は、はぁはぁと肩で息をしながら、湊斗の目の前に立つと潤んだ瞳を上げた。

「私は湊斗さんに、一ミリでもいいから愛されたかった。だから、あの言葉が聞けただけで、もう充分です」

「一毬……何を?」

「紫さんの記憶が戻るまで、誰も愛さないと湊斗さんが決めたのなら、私はそれでも構わない」

 一毬は一旦目を閉じると、胸の前でぎゅっと両手を握りしめる。


 ――私は、湊斗さんを信じてる。


 一毬はゆっくりと顔を上げた。

「私はずっと、湊斗さんのことを、待っています」

 湊斗の口元から、はっとした息が漏れる。

 そしてみるみるうちに、湊斗の顔はくしゃくしゃになった。
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