非・溺愛宣言~なのに今夜も腕の中~
 湊斗は、案内された応接間のソファに浅く腰かけると、ふうと短く息を吐く。

 インターホンを鳴らした時、対応した者はひどく慌てた様子だった。

 湊斗自身も、早朝の訪問に失礼は承知でここに来た。

 さすがにこの時間ならば、菱山がまだ自宅にいるだろうと踏んだのだ。


 どれだけ時間が経っただろう。

 ゆったりとした足音とともに、応接間に菱山が現れた。

 服装はハイブランドのポロシャツ姿の所を見ると、出社直前ではなさそうだ。


「菱山社長。早朝にお伺いし申し訳ありません」

 湊斗は立ち上がると深々と頭を下げる。

 菱山はその様子を横目でチラッと見ると、奥の席に腰かけた。

「いやいや、湊斗くん。驚きましたよ。こんな朝早くに現れるとは、よほどのことなのでしょうね。昨日は、お父上も謝罪に来られましたし……プレス発表会での発言内容の、撤回ということでよろしいですかな?」

 そこまで言うと、菱山はいやらしい笑みを浮かべながら、ゆっくりと顎を撫でる。

 小さなノック音が聞こえ、使用人の女性が入り口からティーセットを持って現れた。
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