非・溺愛宣言~なのに今夜も腕の中~

消えた呪い

「ねぇ、湊斗の帰り、遅すぎない?」

 倉田は苛立つように言うと、ソファで膝をカタカタと揺らしている。

 一毬はその隣に腰かけながら、じっと両手を握り締めていた。

 牧とともに湊斗の帰りを待つことにした後、状況を知った倉田が社長室に駆けつけた。

 それから三人で湊斗の帰りを待っているが、いまだに何の連絡も入っていない。


 湊斗は“菱山宅に行く”とメモに残していた。


 ――自宅ってことは、紫さんもいるはず……。


 一毬の心をどことなく不安が押し寄せる。

「ちょっと、外の様子を見てきます」

 一毬が立ち上がり、入り口に向かおうとしたのと同じタイミングで、すっと扉が開かれた。

 顔を上げると目の前には、緊張した様子の湊斗が立っている。

「湊斗さん!」

 一毬は小さく叫ぶと、慌てて駆け寄った。


 湊斗は硬く口を結んでいる。

 一毬は不安が大きくなり、下から湊斗の顔を覗き込んだ。

 湊斗はしばらくじっと一毬の顔を見つめていたが、急に顔つきを柔らかく緩めると、一毬を力いっぱい抱きしめた。
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