非・溺愛宣言~なのに今夜も腕の中~
 腕を組んで窓際に立つ倉田が、苛立った様子で声を荒げる。

 湊斗は静かにうなずくと、今朝の出来事を順を追って説明した。

 製品開発の方向性は変えないこと、支援を打ち切るなら構わないと菱山に伝えたこと。

「それと……」

 湊斗がチラッと楠木に目線を送る。

「楠木が、紫さんを説得してくれた」

 湊斗の言葉に一毬は首を傾げる。


 紫は記憶を失っていたのだ。

 説得というのは、どういうことだろう?

 訳がわからず戸惑う一毬の手を、湊斗がぎゅっと握った。

「紫さんは……記憶を失っていなかったんだ」

「えっ……」

 一毬だけじゃない。倉田も牧も、その場でみんなが「はっ」と息を止めた。

 言葉を失った三人の前で、楠木が静かに口を開く。


「すべては父の、菱山の策略です。父はどうしてもTODOの研究と製品を手に入れたかった。だから意見を対立させる湊斗社長を、黙らせる口実が欲しかったんです。そして紫もまた、湊斗社長の愛を求めていた……」

「そんな……」
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