非・溺愛宣言~なのに今夜も腕の中~
「だから嘘ついたっていうのか?! それでどれだけの人間が傷ついたと思ってんだ!」

 倉田が楠木に食ってかかる。

 楠木は胸ぐらを掴まれたまま、静かに目を閉じた。

「社長に正体がバレて、僕はその足で父に会いに行きました。そこで僕もまた、父の策略の中で良いように踊らされていることを知ったんです」

「それで、紫さんの説得を?」

 牧が静かに声を出す。

「父の話を聞いて、紫の記憶喪失に疑問を持ちました。そして紫に確認した……」

「紫さんは、何と……?」

「泣いていました。紫自身も苦しんでいたんです。愛されたい人に“あなたのせいで記憶を失った”と、嘘をつかなければ、側にすらいられない自分を憐れむように……」

「そんな……」

 一毬の頬を涙が伝う。


 愛されたい人に愛されない苦しみや切なさを、紫もまた感じていたのか。

「だから僕は紫に、もうやめようと言いました。父の呪縛から二人で飛び出すんだって……」

 楠木の瞳は、うっすらと涙がにじんている。
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