非・溺愛宣言~なのに今夜も腕の中~
「おい、一毬」

 一毬がうつむくように足元を見ていると、突然湊斗が振り返る。

「へ? は、はいっ」

 パッと顔を上げた一毬の目の前に、チャリンと音を立てて湊斗がキーケースを掲げた。


「これ、お前用だから。今日の帰りは、牧に送ってもらえ」

「……は、はい」

 一毬は戸惑いながらキーケースを受け取る。

 これは湊斗のマンションの鍵だろう。

 一毬がチラッと奥に立っている牧の様子を伺うと、明らかに不満げな顔が覗いている。


「よ、よろしくお願いします……」

 一毬が小さく声を出すと、牧は口元をとがらせたまま目を細めるだけだった。

 くくっという笑い声が聞こえ顔を上げると、湊斗は楽しそうな顔をしている。


 ――この人、絶対に私で遊んでるよね。


 そう思いながらも大事なキーケースをなくすわけにはいかない。

 一毬はキーケースをもう一度見つめると、ぎゅっと握り締めた。
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