非・溺愛宣言~なのに今夜も腕の中~
 膝に額をこすりつけるように頭を下げる楠木の姿を、湊斗は何かを考える様子でじっと見つめていた。

「会社辞めて、この後どうすんの?」

 倉田がチラッと楠木の横顔に向けて声を出す。

 楠木は下を向いたまま、ただ小さく横に首を振るだけだった。


 今までの話に聞く菱山の性格からして、反抗して飛び出した楠木を、そう簡単に呼び戻しはしないだろう。

 それはきっと親子であっても変わらない。


 ――楠木さん程、実力がある人はいないのに……。


 一毬がそんな事を思っていた時、牧が湊斗の脇に立ち、小さく何かを耳打ちした。

 湊斗は小さくうなずく。


「楠木さん。私から一つお伺いしても?」

 牧の声に、楠木は「はい?」と不思議そうに顔を上げる。

「楠木さんは、社長が襲われたことをご存じなかったようでしたが、それは事実ですか?」

「はい。倉田さんから伺ったのが最初で……。あの、襲われたとは?」

 楠木の反応を見て、牧が湊斗に目線を送る。

「ウイルス騒動の時、俺は自宅にパソコンを取りに行って、二人組の男に襲われたんだ。多分狙いは俺のパソコンだ」
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