非・溺愛宣言~なのに今夜も腕の中~
「え……」

 湊斗の話に楠木は絶句している。

 その様子から、楠木もそしてそのバックにいた菱山も、事件を知らなかったことがわかった。


 湊斗は改めて楠木に向き直る。

「楠木、これから牧と一緒にウイルス騒動の犯人を捜せ。正直こっちは手詰まりなんだ。お前の辞表を受理するかは、その後で考える」

「でも……僕は……」

 湊斗の言葉に、楠木は戸惑った様子で目を揺らしている。

 二人の会話に、一毬が驚いた顔をパッと上げると、湊斗はにんまりと口元を引き上げた。

「一毬も言ってただろ? 楠木は尊敬できる先輩だって」


 一毬は目を丸くする。

 楠木の行動は、紫や菱山の利益のためだったかも知れない。

 それでも総務部で働く楠木の仕事は、丁寧で誰よりも的確だった。

 それは隣で見ていた一毬が、一番よくわかっている。

 湊斗はそんな所もちゃんと見て、評価できる人なのだ。


 一毬は笑顔になると大きくうなずいた。

 その様子を見ていた楠木は、瞳を潤ませると、再び深く頭を下げた。
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