非・溺愛宣言~なのに今夜も腕の中~
 一毬は、硬い顔つきのまま鍵を開ける湊斗の手元をじっと見ていたが、バタンと玄関の扉が閉まったのと同時に、湊斗にきつく抱きしめられた。

「きゃ……」

 一毬は突然抱きしめられた湊斗の腕の強さに、思わず息が苦しくなり、小さく悲鳴を上げる。

 その声に湊斗はふっと腕の力を緩めると、一毬の首筋に顔をうずめるように唇を当てた。

 湊斗の熱い吐息が、首筋から耳元に伝わる。

 一毬は背中からこみ上げる初めての感覚に、思わず「ん……」と声を漏らした。


「一毬の前だと、どんどんかっこ悪くなるな……」

 湊斗はささやくようにそう言うと、一毬に向き直りじっと顔を覗き込んだ。

「俺が、どれだけ我慢してたか、わかるか?」

「が、我慢って……」

「もう、今日は止められないから」

 一毬は言われた言葉の意味に、途端に顔を真っ赤にすると、湊斗の顔をまともに見られずに下を向く。

 湊斗はくすっと笑うと、まるで子供を抱えるように、ひょいと一毬を抱き上げた。

「きゃ」

 突然湊斗の頭の上まで登った視界に、一毬は再び悲鳴を上げると、慌てて抱きつくように首元に手を回す。

 湊斗はそのまま一毬のパンプスを脱がすと、暗い廊下をゆっくりと進んだ。
< 226 / 268 >

この作品をシェア

pagetop