非・溺愛宣言~なのに今夜も腕の中~
 エレベーターはポンと音を立てて静かに停止する。

 湊斗の後に続いて廊下を歩き、“総務部”と書かれた看板のある部屋へと足を踏み入れた。



「えっと……。社長のお知り合いか何かで?」

 突然、湊斗から一毬の事を任された総務課長が、眼鏡の奥の小さい目をしばたたかせながら、一毬の顔を覗き込む。

「まぁ、そんなとこだ。よろしく頼むよ」

 湊斗はそう言うと、一毬の頭をポンポンと大きな手で包むように叩いた。

 一毬は一つに結んだ髪を揺らし、弾かれたように頭を下げる。


「は、はぁ。社長のご紹介であれば……。えっと、そうですねぇ……」

 課長はずり落ちた眼鏡を引き上げながら、フロアの奥に向かって首を伸ばす。

楠木(くすのき)くん。募集してた君のサポート業務、この佐倉さんにお願いするから」

 するとすぐに爽やかな返事が聞こえ、精悍な顔つきの男性が笑顔でやって来る。


「初めまして。楠木圭吾(くすのきけいご)です」
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