非・溺愛宣言~なのに今夜も腕の中~
 やはり湊斗は研究者なのだろう。

 倉田と話す姿は、本当に楽しそうで生き生きとしていた。

 一毬は遠巻きに二人の会話を聞きながら、ふとドーナツ屋で働いていた時の事が頭に浮かぶ。


 ――私の経験なんて、参考になるかはわからないけど……。


 一毬が「あの」と小さく声を出すと、湊斗は分厚い資料をめくっていた手を止め振り返った。


「既存の製品を使うことって、できないんでしょうか?」

「既存の部品ってこと?」

 倉田が首を傾げる。

「はい。一から自社で作ったら大変だけど、既存のもので代用できる所はそれを使うんです。ドーナツ屋でも、トッピングする飾りの部分は、それを作る専門の業者のものを仕入れてました。自分たちで作ることもできるけど、その手間と人件費を考えると、仕入れた方が安いって、店長が……」

 一毬はそこまで言うと、二人の顔つきを見て照れるように下を向く。


 ――ちょっと、安直すぎたかな……。


 湊斗はじっと考え込むように眉間に手を当てていたが、しばらくして顔を上げた。
< 230 / 268 >

この作品をシェア

pagetop