非・溺愛宣言~なのに今夜も腕の中~
 楠木は感じの良い笑顔でそう言うと、湊斗に頭を下げた後、一毬に手を差し出した。

「よ、よろしくお願いします」

 一毬は緊張でカチンコチンに固くなった身体で、ぎこちなくそっと手を取る。

 湊斗はその様子を目を細めて見ていたが「じゃあ」と軽く手をあげ、くるっと背を向けた。


「い、行ってらっしゃい……」

 湊斗から離れることに不安と寂しさを感じ、思わず口をついて出た一毬の言葉に、湊斗はあははと声を立てて笑うと楽しそうに振り返る。


「一毬。夜はちゃんと待ってろよ」

 湊斗は耳元でそうささやくと、一毬の手元のキーケースをトントンと指で叩いた。

「ひゃっ……」

 一毬は一気に顔を真っ赤にして飛びのくと、同じく真っ赤になった耳元を手で押さえる。

 湊斗はその様子を楽しそうに見つめながら、颯爽と部屋を後にした。


 ――だから……! 無駄に色気振りまかないでよ……。


 一毬はうらめしそうに、湊斗が出て行った扉を睨みつける。
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