非・溺愛宣言~なのに今夜も腕の中~
「引き受けようと思う。僕も自分自身のために、生きたいって思えたからね」

 軽く拳を握ってガッツポーズを見せる楠木に、一毬は満面の笑みを送った。

 午後の木漏れ日が窓から差し込んでいる。

 一毬は楠木とゆっくりと並んで歩いた。


「あの、紫さんはその後……」

 どう聞いて良いのかわからず、遠慮がちに声を出す一毬に、楠木は笑顔を見せる。

「紫は留学したよ。紫自身も自分のために、やりたいことを見つけるんだって言ってね。だからもう、佐倉さんも安心して」

 楠木は、今も一毬が紫のことを気にしていると思っているのだろう。

 安心させるように、とても穏やかな声でそう言った。


 一毬は一度も会ったことのない紫へ、思いを巡らせる。

 一毬と同じように、湊斗に愛されることを願い続けた女性。

 この経験を経て、紫自身が輝ける未来へと踏み出してくれたらと、願わずにはいられなかった。


「そういえば、佐倉さんと社長の入籍も、もうすぐなんでしょ? 今や一躍時の人だよね」
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