非・溺愛宣言~なのに今夜も腕の中~
「へぇ。そうなんですね……」

 一毬から思わず声が漏れる。

 楠木の話を聞いていて、なんとなく納得できた。

 湊斗は生まれ育った環境に胡坐(あぐら)をかかず、努力をすることができる人なのだろう。

 そしてそれに見合った実力も自信も、兼ね備えている。

 だから、一毬の借金の肩代わりをするなんて突飛な事が、簡単に言えたのかも知れない。


 愕然とする一毬の様子を見ながら、楠木はころころと楽しそうに笑った。

「佐倉さんって、面白い子だね。でも、あんなに親し気だったのに、あんまり社長の事知らないんだね」

 楠木にチラッと顔を覗き込まれ、一毬は思わず下を向く。


 まさか“昨日、道端で拾われました”なんて、口が裂けても言えない。

「そ、そうですね……」

 小さく答える一毬にほほ笑むと、楠木はそれ以上何も言わなかった。
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