非・溺愛宣言~なのに今夜も腕の中~
「まあでも。彼女は、社長の権力に群がってくる人達とは違う、という事はわかりました」

 牧の言葉に、湊斗は満足そうに口元を引き上げる。

「ただ……」

 しばらく沈黙した後、牧が低い声を出した。

「ただ?」

「ただ、だからこそ……くれぐれも会長にはご内密に」

 牧のくぎを刺すような目線に、湊斗はため息をつくと目を逸らす。


 牧は、湊斗が副社長の時代から秘書として支えてくれた、いわば湊斗の右腕のような人物だ。

 年齢は湊斗よりも上だが、出しゃばらず常に湊斗が最高のパフォーマンスができるようにとサポートしてくれている。

 そんな湊斗を一番近くで見ている牧だからこそ、一毬の事は簡単に見過ごせなかったのかも知れない。


「……わかってる」

 湊斗は低い声で小さく答えると、エレベーターの扉の隙間を縫うようにエントランスへと足を出した。
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