非・溺愛宣言~なのに今夜も腕の中~
「今日は初日で疲れてるでしょうから、優しくしてあげてくださいね、社長」

 楠木の意味深な言い方に、湊斗はチラッと牧と目を合わせると、再び鋭い視線を楠木に向けた。

「それ、どういう意味だ?」

「いえ、なんとなく。失礼しました。では、私はこれで」

 楠木は表情一つ変えることなく頭を下げると、その場を去っていく。

 何とも捉えどころのない雰囲気だ。


「あいつ、うちに来てどれくらいだ?」

 湊斗は楠木の後ろ姿をじっと見送りながら、隣の牧に声をかけた。

「まだ1年も経っていないはずです。ただ非常に優秀で、営業部への異動を打診しているそうですが、本人が承知しないのだとか」

 湊斗は腕を組むと「ふーん」と低い声を漏らす。

「何か気になりますか?」

 牧が眉をひそめた顔を覗かせる。

「いや。なんでもない」

 湊斗は牧に片手を上げると、そのまま車へと乗り込んだ。
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