非・溺愛宣言~なのに今夜も腕の中~
「は、はい……」

 楠木は少し考えるふりをしてから、顔を上げる。


「たとえば、社長だってそうだと思うよ」

「社長……ですか?」

「そう。まぁ社長の場合は、社外への根回しって感じかな。こんなこと言ったって知れたら、怒られちゃうね」

 あははと肩をすくめる楠木に、一毬はもう一度小さく首を傾げた。


 ――どういう意味だろう……?


 楠木の口ぶりが妙に引っかかる。

 一毬がそっと隣を覗くと、楠木はそんな一毬の様子は気にしていないのか、にっこりとほほ笑んでいた。


「じゃあ、行ってきます」

 一毬は気を取り直すように資料を手に持つと、楠木に見送られながら総務部を後にした。


 ――まずは仕事、仕事!


 一毬は付箋のメモを見ながら各部署を順に回っていく。

 確かに楠木の言ったように、社内をぐるぐると周り挨拶をすることで、なんとなくこの会社の組織が見えてきたような気がする。
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