非・溺愛宣言~なのに今夜も腕の中~
「やっぱり楠木さんって、すごい人なんだ」

 さっき妙に引っかかったのは、たぶん気のせいなのだろう。


 一毬が最後に回ってきたのは“研究室”と書かれた看板がかかる部屋だった。

 昨日聞いた話では、湊斗も業務の合間を縫って研究に携わっているようだった。

「もしかして、湊斗さんいるかな……」

 昨夜(ゆうべ)顔を合せなかった湊斗の姿を想像し、ドキドキしながらノックしようとした時、同じタイミングで扉がすっと引かれる。

 思わずスカッと手が扉をかすめ、よろめいた一毬は目の前の人物に抱きとめられた。


「一毬? こんな所でどうした?」

 頭で思い描いていた湊斗の顔が突然目の前に現れ、一毬は思わず「ぎゃっ」と声を上げ飛びのいた。


 ――私ってば、何でこんなにドキドキするのよ……。


 一毬は駆け足になる心臓を、書類で隠すように握り締めながら、湊斗の顔を見上げる。

 一方の湊斗は、一毬に叫び声を出されたからか、両手をあげたまま固まっていた。
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