非・溺愛宣言～なのに今夜も腕の中～

「店長さんよぉ。あんたが払ってくれてもいいんだぜ。可愛い従業員だろう？」

　背の高い方の男がだみ声を張り上げ、店長は真っ青な顔をさらに強張らせると後ずさりした。

　通りを行く人たちも、何事かとこちらの様子をチラチラと伺っている。

　陽気は温かさも増してきて、これから春本番だというのに、一毬の周りだけ真冬の寒さだ。

　人々の視線を一気に背負い、一毬はふらついて意識が遠くなりそうなまま、じっと歩道を見つめていた。


「ちょっと！　そこで、何をしているんですか？！」

　すると突然、広場の奥から鋭い声が聞こえる。

　一毬がゆっくりと頭を持ち上げると、スーツ姿の男性が足早にこちらに向かってくるのが見えた。


　男性の後ろからは、もう一人背の高い男性がゆっくりと歩いて来る。

「おい、牧(まき)。どうした？」

　後ろの男性の姿を見た途端、こんな状況にも関わらず一毬は一瞬で目を奪われた。