非・溺愛宣言~なのに今夜も腕の中~
「そうかな? そう見えてるだけじゃない?」

「……どういう意味ですか?」

 倉田は口を閉じると、窓の外に目をやった。

 高層階の窓からは、漆黒の闇のような夜空が広がっている。


「あいつには、眠りの呪いがかかってるからね」

 しばらくして口を開いた倉田の言葉に、一毬はドキッとして顔を上げた。

「眠りの……呪い……?」

 戸惑う一毬に、倉田は口元だけを引き上げる。

「じゃあ。また会社でね」

 倉田はそう言うと、静かに部屋を後にした。


 一毬は寝室の扉をそっと開く。

 淡い間接照明の光に照らされたベッドからは、湊斗の規則正しい寝息が聞こえていた。

 一毬はシーツに足を滑り込ませると、横になって湊斗の艶のある前髪にそっと触れる。

 倉田が言っていた“眠りの呪い”とは、きっと湊斗が“なかなか寝られない”ことと関係があるのだろう。

 昼間に聞いた結婚話といい、湊斗には一毬に見せない顔がある。


「湊斗さん……。あなたは何を抱えてるんですか……?」

 一毬の声はただ夜の闇に、儚く消えていくだけだった。
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